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米ソのスパイたちはいつもだましあったり、殺しあったりばかりしていたのではない。
軍人仲間には敵味方であってもお互いに共通の軍人意識があり、ライバルであっても記者同士には共通の記者意識があるように、スパイにも共通の何かがあるように思う。
KGBで使われていたこのdezinformatsiyaがdisinformationとして英語となったのはそのl例。
もう少し広く偽情報作戦も含め、外国政府の政策に影響を与える作戦という意味のactivemeasuresもロシア語から「輸入」された言葉だという。
activemeasuresは直訳すれば「積極的な措置」という、なんの変哲もない日本語にしかならないが、政治家や新聞記者、あるいは経済界の要人など、外国の世論をつくっていく指導者に近づいて、この人たちの考え方に影響を与えたり、放送で世論を形成したりする幅広い諜報作戦だ。
このなかにdisinformationも入っている。
しかし、こうした手口はソ連のKGBの専売特許ではなかった。
1986年、R政権が相次ぐリビアのテロ活動に反発を強め、地中海配備のアメリカ海軍航空母艦から発進した戦闘爆撃機がリビアの首都トリポリを爆撃したことがあった。
米国はリビアの指導者C大佐にさらに脅しをかけ、テロ活動を止めさせようとしたのだろう、C大佐向けのdisinformation作戦をとった。
1986年8月25日のW紙は、R大統領が大規模なリビア爆撃をするとの決定を同月14日に下した、と報じた。
しかしワシントン・P紙の腕利き記者で、ウォーターゲート事件で名をあげたBが、14日R大統領に提出された国家安全保障担当大統領補佐官の問題のメモを手に入れ、W紙の記事は、実は意図的な偽情報に基づくものだと1カ月半後にすっぱ抜いた。
このメモには次のように書かれていたという。
実際にあった事件も、実際にはなかった事件もひとまとめにして、「偽情報計画」を通じて、リビア国内に自分に対する反対がかなりあるということをCに知らせること。
それを基本目標とすることが、ここでの重要なポイントのひとつである)。
時R政権のホワイトハウスのスポークスマンだったR副報道官は、その回想録SPEAKINGOUT(邦訳の題もスピーキング・アウト)で、メモのなかにdisinformationなどという言葉を使っている文書に大統領の署名をもらうなどというのは、この偽情報作戦の責任が大統領にあるということを明らかにしてしまうお組末な仕事だ、とこぎ下ろしている。
ところが、問題のW紙の記事がでた時、そのスピークス副報道官も「記事は信頼できるものだ」と言明していたのだから、あまり人の悪口はいえないはずである。
disinformationはもともとはblackpropaganda(出所をかくした宣伝文書)とか、deceptionprogram(人を欺く計画)などといわれていたものだろう。
しかし米国に亡命したチェコの元スパイが自分の経験を生かして、ポストン大学でDisinformationandPressという講座を持ったことがある。
スパイの言葉はスパイの世界から政治の世界へ、そして学問の世界へも入りつつある。
スパイといえば、暗い公園を歩く目立たない姿のふたりの男が、カバンをそっとすり替えたり、木陰にさりげなく置かれた重要書類を別の人物が拾いあげて去る、という映画にでできそうなシーンを思い浮かべがちだ。
確かにそういう伝統的なスパイ活動も行われている。
だがスパイの世界も変わってきている。
通信やコンビュータ・テクノロジーの急速な進歩で、米国の諜報戦略の重点は、通信衛星、コンヒ。
ュー夕、それを使った通信傍受、防諜に置かれるようになっていったのだ。
多くの人は、米国のスパイ機関というとCIAを思い浮かべるが、それよりも多くの人員、予算を持ち、最先端のテクノロジーを駆使して情報を収集している諜報組織がある。
NRO(NationalReconnaissanceOffice国家偵察局)は米国が打ちあげるスパイ衛星の管理、運営に1960年代からあたってきたが、その存在が公式に明らかにされたのは1992年になってからのこと。
年間100億ドル近い予算を持ちながら、その存在すら極秘にされてきた。
それは、スパイ衛星が撮影した地上の写真が通りを行く車のナンバーさえ読むことができるほどのレベルであり、冷戦下では、そうしたテクノロジーを米国が持っていることを明らかにするのは、米国の利益に合致しないということを大統領も議会も十分認めていたからだった。
国家安全保障局の個々の活動のなかで最大のもののひとつは、10億ドル強の人工衛星や多数の偵察機で、えたソ連の通信暗号、レーダ一信号、テレメトリー・デー夕、コンピュータ・データを突き合わせ、解釈し、内容を解き明かすことだ。
NROやNSAのこうした活動はELINT(ElectronicIntelligence電子諜報活動)とか、SIGINT(SignalIntelligence通信諜報活動)、COMINT(CommunicationIntelligenceコミュニケーション諜報活動)と呼ばれる。
しかしいかにテクノロジーを駆使できても、こうした組織だけでは諜報活動はできるわけではない。
衛星や偵察機はソ連ミサイルの動きを探る助けとなったが、S・Fの頭のなかや日本の通産省にまでは入り込めない。
ここで通産省がでてくるのは、諜報活動の今後に経済・通商情報が重要課題となることをいおうとする布石のためだから、この点はさておいて、結局情報収集で相手の「意図」を探るのは人間となる。
古い方法だけれど、最も信頼できる情報がえられるのだ。
人からえる諜報活動はHUMINT(HumanIntelligence人的諜報活動)と呼ばれる。
湾岸戦争での「戦果」にもかかわらず、イラクのF大統領の意図がつかめなかった、という批判が米国内では湾岸戦争当時強かった。
スパイはspyやspymaster、あるいは「幽霊、おばけ」という意味のspook(CIA局員)という言葉のほか、mole(モグラ、長年にわたり体制内に深く入り込んでいるスパイ、英国の作家Jがその小説のなかで使ってから広まった言葉だという)、sleeperあるいはsleeperagent(時がくるまで普通の人としてじっと待っているスパイ)などが使われる。
CIAに関してよく使うagentというのは、CIAのために働く海外で雇ったスパイのことで、CIAから派遣された人物はofficerと呼ばれるが、FBIではSpecialAgentが捜査要員の正式な呼び名になっている。
こうしたスパイたちはasset(情報活動に協力してくれる人)やinformant(諜報活動に有益な情報を提供してくれる人)をみつけ、自らはcover、coverorganization、front(ともに秘密活動を隠すための組織、機関のこと。
外交官や一般企業の社員の形をとることが多い)の下で身分を隠して諜報活動をする。
スパイはまたsafehouse(安全な隠れ家)を本拠にして活動する。
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